こないだまで水道が無料だった国

アイルランドでは2014年まで家庭用水道料金がかかっていませんでした。

家庭用水道事業は各地方自治体が運営していましたが、それら29県と5都府の税収で賄われていたのです。

2008年の金融危機で大打撃を受けた同国政府は緊縮財政に転向し、重要施策の一つとして2013年に国営企業の子会社「アイリッシュウォーター」を設立、34自治体から全ての飲用水と下水の運営を順次引き継ぎ、規模の経済と重複運営解消によるコストダウンと効率化を図り、収益モデルは水道料金徴収型に転換、高い漏水率などを改善するために設備投資を積極的に推進する計画の下、運営がスタートしました。

アイリッシュウォーターはそれまで水道料金を払わずに済んでいた国民からの反発を招き、また緊縮財政の象徴として各政党も入り乱れての大騒ぎになりました。

現在においても不満を持つ国民は少なくないようです。

そんな中、今週、アイリッシュウォーターの運営するいくつかの地域で「煮沸指示通知」なるものが発信されました。水質に問題があるため飲用などには煮沸を要するということです。

水質問題は国営化と関係があるか分かりませんが、市民の不満解消に遠いことは明らか。

国民が国営化された水道に不満を持っている、その最大要因は水道が無料から有料になったことで間違いないでしょう。

水道を公共物として定義すればそれを税で運営するという概念自体は理解できます。しかしながら、成長のピークを過ぎた成熟国家が巨大インフラ装置つまり巨額の設備投資を伴う水道事業を、税収だけでコンスタントに賄うのは現実的ではありません。

つまり本件は国営化がもたらした問題ではなく、税収だけでは所詮無理であった水道事業の収入面における施策がずっとなかったことが一番の原因。

翻って日本の水道、水道料金収入だけで見れば大赤字です。水道料金を上げるか、コストを下げるか、両方か、の3択となりますが、まず広域連携でコストを下げ、更には小規模水道には塩素消毒義務化を廃止するなどの枝葉の工夫で徹底的に供給コストを下げる。その上で仕方なければ同意にもとづき水道代を上げさせてもらう。事業として儲かる余地のある比較的大規模な自治体では民間事業者への運営委託にrentが発生しない仕組み、契約形態が必要となることは当然ですが、結局なおざりになる建付けになっています。

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