全国飲泉めぐり 8.杣(そま)温泉(秋田県北秋田市)

マタギのおじさんに会えるアルカリ源泉の宿

この宿のご主人、杣(そま)さんはマタギ。水広場を代表する立場としては療養効果抜群というアルカリ性源泉の体験取材が第一目的、それは当然なのですが、初めて目にするマタギという存在が気になって仕方がなかった往路です。

 
秋田県北部、ブナ原生林で知られる森吉山にぽつっとたたずむ一軒宿に午後3時頃到着。地図で鳥瞰すれば白神山地の南麓であることがわかる。引き戸を開け、奥で夕食を準備している女将さんに「ごめんくださ~い」と一言。これってきりたんぽ?と嬉しくなる醤油系のあったかい香りと一緒にお母さん、でなく女将さんが現れた。

 

 
11月はまだマタギのシーズン前だ。少し残念な気もしたが、おかげでマタギのご主人にたっぷり話が聞けたのは幸いだった。

春夏は登山、秋は渓流釣りと紅葉、冬はマタギ料理と、一年を通じバラエティ豊かなに楽しませてくれるのが杣温泉だ。一軒宿には野生動物の剥製や猿の腰掛が鎮座し巨大岩魚の魚拓が何枚も飾られている。廊下の写真にはご主人が熊を狙う図の写真が。
宿のすぐ脇を流れる渓流では連れの林君が早速岩魚を発見した。僕はしばし飲泉視察を忘れ祖父と父親のきじ猟についていった小学生の頃の高揚感を覚える。普通の中年オヤジが急にニヤけた姿はハタから見て気持ち悪かったろう。

 

 

 
本題の水。この温泉宿では2種類の水(湯)が楽しめる。温泉水のほうはpH8.5のアルカリ性で泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉で泉温は54℃、無色透明で無臭。温泉成分表からはマグネシウムやカリウムの数値は分からなかったが、1キロあたり溶存物質が1gを超えるというこの療養源泉、陽イオン陰イオンの各種ミネラルがバランス良く構成されているようにみえる。
そして内湯に入り源泉を飲む。「美味しい温泉水だ」というのが最初の印象。pH1.2の強酸性含鉄泉の後という順番を差し引いても多分美味しい。ついごくごく飲んでしまう。

飲用の適応症としては慢性消化器病、慢性便秘、慢性胆のう炎、胆石症、肥満症、糖尿病、通風とある。お酒を欠かさないというマタギのおとうさんもこの水で血糖値を下げたということだ。この温泉水を採水しにわざわざ盛岡や秋田市などからポリタンクを持ってやってくる人もいる。
もうひとつの名水は宿の前の飲泉場で飲める冷泉。これがまたうまいのです。炊飯やお茶やコーヒー、そしてスコッチウィスキーにも試したくなる清冽な味わいだ。

  

茗荷宿?お気に入りの落語に茗荷(みょうが)宿という話がある。茗荷を食べ過ぎると物忘れするという諺を使ったドタバタ劇っぽい展開と欲張りが損するオチ。僕らは茗荷宿の客とは違って宿代を払うことは忘れなかった。一方、コートとジャケットを宿に忘れてきた。茗荷ではないけれど、清流育ちで泥臭さが全然ない鯉の洗い(普段僕は鯉を食べられません)ときりたんぽが美味しすぎた?(単に僕がおっちょこちょいなだけです)。

別世界を満喫させて頂き、有難うございました。

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